「札幌は生活費が安い」
そんな話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
確かに東京や横浜と比べれば、札幌は家賃を抑えて部屋を借りやすいイメージがあります。
私自身も、札幌について考えるときには「大都市の割には住宅費を抑えやすい街」という印象を持っています。
ところが、総務省の最新データを調べてみると、少し意外な結果が出てきました。
札幌は、物価全体で見ると決して「安い都市」とはいえないのです。
前回の記事では、札幌市の1世帯当たり年間収入が475万3千円で、全国21大都市の中で最も低い水準だったことを紹介しました。
では収入が低い分、生活費も安いのでしょうか。
今回は2026年9月18日に公表されたばかりの総務省「小売物価統計調査(構造編)2025年結果」を中心に、札幌・東京・横浜・大阪・福岡の物価を比較してみます。総務省のこの調査は、商品の小売価格やサービス料金を調べ、地域ごとの物価水準を明らかにするための基幹統計です。総務省統計局
札幌市は本当に物価が安い?
まずは5都市の「消費者物価地域差指数」を比較してみましょう。
これは全国平均を100として、その地域の物価が高いのか低いのかを示した指数です。
| 都市 | 総合 | 家賃を除く総合 | 食料 |
|---|---|---|---|
| 東京都区部 | 105.3 | 102.7 | 103.6 |
| 横浜市 | 103.8 | 103.1 | 103.2 |
| 札幌市 | 102.1 | 102.7 | 103.3 |
| 大阪市 | 100.6 | 100.0 | 100.4 |
| 福岡市 | 99.3 | 99.5 | 99.6 |
※全国平均=100
※総務省「小売物価統計調査(構造編)2025年結果」より。総務省統計局
これはなかなか興味深い結果です。
5都市の中で最も物価が高いのは東京都区部ですが、その次が横浜市、そして3番目が札幌市です。
大阪市や福岡市より札幌市の総合指数は高くなっています。
さらに全国の調査対象52都市で見ても、札幌市の総合指数102.1は5位です。総務省統計局
「札幌は物価が安い」と思っていた人にとっては、意外な数字ではないでしょうか。
家賃を除くと札幌と東京は同じ「102.7」
さらに面白いのが「家賃を除く総合」です。
札幌市は102.7。
東京都区部も102.7です。
つまり、家賃を除いた物価指数では札幌市と東京都区部が同じ数字になっています。
一方、
大阪市は100.0、福岡市は99.5。
「東京は何でも高く、札幌は何でも安い」というイメージだけでは、現在の生活コストを正確に説明できないことが分かります。総務省統計局
もちろん、この指数が「札幌と東京で毎月の生活費がまったく同額」という意味ではありません。
世帯構成や購入する商品、住居、車の有無などによって実際の支出額は大きく変わります。
あくまで地域間の物価水準を比較する指標として見る必要があります。
食料品も札幌は意外と高い
毎日の暮らしで実感しやすいのが食料品です。
食料の指数を見ると、
札幌市 103.3
東京都区部 103.6
横浜市 103.2
大阪市 100.4
福岡市 99.6
となっています。総務省統計局
驚くことに、札幌市の食料の物価水準は横浜市よりわずかに高く、東京23区にもかなり近いのです。
北海道は農業や漁業が盛んなので、
「北海道なら食べ物も安いのでは?」
と思ってしまいます。
しかし、生産地が近いことと、小売価格が必ず安くなることは同じではありません。
物流費、人件費、店舗運営費などさまざまなコストが商品価格には含まれています。
では、なぜ「札幌は生活費が安い」というイメージがあるのか
ここで疑問が出てきます。
物価がそれほど安くないのなら、なぜ札幌には「生活費が安い」というイメージがあるのでしょうか。
大きな理由の一つとして考えられるのが、住宅費です。
東京や横浜で部屋を借りようとすると、家賃は家計のかなり大きな割合を占めます。
一方、札幌では中心部や地下鉄駅に近い場所でも、東京に比べれば比較的手頃な家賃の物件を探すことができます。
つまり、
「札幌は物価そのものが安い」というより、「住居費を抑えやすい」
と考えたほうが、実態に近いのかもしれません。
総務省の地域差指数でも、地域による差が最も大きい費目は「住居」です。2025年は最も高い東京都129.8に対し、最も低い岡山県79.1で、1.64倍もの開きがありました。なお、この統計の「住居」と「総合」には持ち家の帰属家賃は含まれていません。総務省統計局
家賃はやはり札幌が安い?5都市を公的統計で比較
ここまで物価を見てくると、札幌は必ずしも「何でも安い街」ではないことが分かりました。
では、札幌の大きなメリットとされる家賃はどうでしょうか。
総務省「令和5年住宅・土地統計調査」で、札幌市、東京都区部、横浜市、大阪市、福岡市の民営借家を比較してみました。
| 都市 | 1か月当たり家賃 | 1畳当たり家賃 |
|---|---|---|
| 札幌市 | 54,362円 | 2,937円 |
| 東京都区部 | 99,618円 | 6,947円 |
| 横浜市 | 79,902円 | 4,926円 |
| 大阪市 | 65,412円 | 4,641円 |
| 福岡市 | 59,187円 | 3,697円 |
※総務省「令和5年住宅・土地統計調査」第34-2表。専用住宅の民営借家(総数)。2023年調査。
この結果を見ると、札幌の「家賃の安さ」はかなりはっきりしています。
札幌市の1か月当たり家賃は54,362円。それに対して東京都区部は99,618円で、月に45,256円もの差があります。
単純に1年間で計算すると、差は約54万3千円になります。
横浜市と比べても月25,540円、大阪市とは11,050円、福岡市とは4,825円の差があります。
さらに注目したいのが「1畳当たり家賃」です。
札幌市は2,937円なのに対し、東京都区部は6,947円。東京は札幌の約2.37倍となっています。
つまり札幌は、単に平均家賃が低いだけではなく、同じ広さで考えても家賃を抑えやすいことが統計から分かります。
ここまで見てくると、「札幌は生活費が安い」というイメージの正体が少し見えてきます。
札幌は食料などの物価が特別安いわけではありません。むしろ全国平均を上回る項目もあります。
しかし、家計の中でも大きな割合を占める住居費については、東京・横浜・大阪・福岡より抑えやすい。
これが札幌の暮らしやすさを支えている一つの要因と考えられそうです。
一方で、北海道は冬の暖房費などの負担があります。
つまり札幌は、
「何でも安い街」ではなく、「家賃は安いが、食料や冬の光熱費は必ずしも安くない街」
という姿が、今回の統計から見えてきます。
ただし札幌には「冬の生活費」がある
札幌の生活費を考えるうえで忘れてはいけないものがあります。
冬です。
北海道で生活した経験のない人には、少し想像しにくいかもしれません。
札幌では冬になると暖房が欠かせません。
灯油、ガス、電気など、住宅によって暖房方法は異なりますが、寒い時期には暖房費が家計に加わります。
さらに車を所有していれば、スタッドレスタイヤやタイヤ交換なども必要です。
戸建住宅なら除雪用品などにもお金がかかります。
そして今回の総務省統計には、これを考えるうえで非常に興味深い数字があります。
2025年の「光熱・水道」の地域差指数では、北海道が117.8で全国47都道府県中最も高くなりました。
反対に最も低かった大阪府は90.6です。両者の差は1.30倍でした。総務省統計局
札幌の住宅費にはメリットがあっても、北海道特有の光熱費負担まで考えると、「住居費が安い=生活費全体が安い」とは言い切れないわけです。
東京は高い。しかし「何もかも東京が高い」わけでもない
今回の統計でも東京都区部の総合指数は105.3で、調査対象都市の中で最も高くなっています。
横浜市も103.8で2位です。総務省統計局
やはり東京・横浜の物価が高いというイメージには根拠があります。
しかし興味深いのは、費目によって事情が大きく異なることです。
例えば都道府県単位では、東京都は「住居」が全国平均より大幅に高い一方、「光熱・水道」は全国平均より低い方向に働いています。
逆に北海道では、「住居」は全国平均より低い方向に働く一方、「光熱・水道」が物価全体を大きく押し上げています。総務省統計局
同じ「生活費」でも、
東京は住宅費が重い。
北海道は光熱費が重い。
という地域ごとの違いが見えてきます。

大阪市・福岡市と比べると札幌の特徴がよく分かる
個人的に今回の比較で面白いと思ったのは、大阪市と福岡市です。
大阪市の総合指数は100.6。
福岡市は99.3。
札幌市は102.1です。
つまり、今回比較した5都市の中では、札幌市は東京・横浜ほどではないものの、大阪や福岡より物価水準が高いという結果になりました。総務省統計局
特に福岡市は政令指定都市でありながら総合指数が全国平均を下回っています。
札幌と福岡は「地方の大都市」という点では似ていますが、生活コストの中身にはかなり違いがありそうです。
「家賃が安い街」と「生活費が安い街」は同じではない
ここまで調べてみて、私が最も興味深いと感じたのがこの点です。
家賃が安いことと、生活費全体が安いことは同じではありません。
家賃が月3万円安ければ、年間では36万円の差になります。
これは家計にとって非常に大きなメリットです。
しかし、食料品や光熱費などが高ければ、その差は少しずつ縮まります。
逆に家賃の高い都市でも、自動車を持たずに生活できたり、暖房費が少なく済んだりすれば、別の部分では支出を抑えられる可能性があります。
だからこそ、移住や転職で住む街を選ぶときには、
「家賃はいくらか」だけではなく、「年間で生活にいくら必要なのか」
という視点が大切なのだと思います。
札幌は「安い街」ではなく「住宅費と都市機能のバランスが特徴の街」かもしれない
札幌には地下鉄があり、大型商業施設や医療機関なども集まっています。
北海道最大の都市としての利便性を持ちながら、東京などと比較すれば住宅費を抑えやすい。
これは札幌の大きな魅力の一つでしょう。
一方で、食料品や光熱費などを見ると、決して「何でも安い街」ではありません。
特に冬の暖房費は、北海道で生活する以上避けにくい負担です。
そのため札幌については、
「生活費が安い街」
と一言で表現するより、
「住宅費を抑えやすい一方、食料や冬の光熱費には注意が必要な街」
と考えたほうが実態に近そうです。
札幌の暮らしを考えるうえでは、生活費だけでなく「そもそも札幌で暮らす世帯の収入はどのくらいなのか」も気になるところです。
総務省の調査では、札幌市の1世帯当たり年間収入は475万3千円となり、21大都市で最も低い水準でした。金融資産も含めて詳しく比較した記事はこちらです。 ↓

まとめ|札幌は本当に生活費が安いのか?
今回、総務省の最新統計から札幌市、東京都区部、横浜市、大阪市、福岡市を比較してみました。
2025年の消費者物価地域差指数では、
札幌市 102.1
東京都区部 105.3
横浜市 103.8
大阪市 100.6
福岡市 99.3
という結果でした。総務省統計局
少なくとも、「札幌は物価そのものが安い街」とは言いにくいことが分かります。
むしろ札幌市の物価水準は全国平均を上回っています。
一方で、札幌には住宅費を抑えやすいという魅力があります。
その代わり、北海道は光熱・水道の物価水準が全国で最も高く、冬には暖房など雪国特有の支出もあります。総務省統計局
結局のところ、
札幌=生活費が安い
ではなく、
「何にお金がかかるのかが、東京や大阪、福岡とは違う」
と考えるのがよさそうです。
前回の記事では、札幌市の1世帯当たり年間収入が475万3千円で、21大都市では最も低い水準だったことを紹介しました。
収入が低い一方で、物価が必ずしも低いわけではない。
この二つを合わせて考えると、「札幌で暮らすためのお金」というテーマがより具体的に見えてきます。


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